年の瀬なので今年読んだ本を振り返る
大晦日。
大掃除も終わり、部屋で時間を持て余しているので今年読んで印象に残った話を5篇ほどピックアップしていきたいと思います。
1.北村薫『水に眠る』より「ものがたり」
僕の大好きな北村先生の少し風変わりな恋愛小説集。
「恋愛小説」と敷衍したリドルストーリー集といった方が良いかもしれない。
この「ものがたり」。男が何回か顔を合わせただけの妻の妹とちょっとぎこちない会話するをだけのお話。それだけ。
北村先生の文章は色で例えるなら空色。
表題じゃないけれど、水のようにスッと入って来ます。
このお話も例に漏れず、上品な、しっとりした印象を受ける作品なんだけれども
最後に鮮やかな色がパッと目の前に広がる。
綺麗な、でもどこか捉えどころのない青空を見上げていたと思ったら真っ赤に燃える落陽が目の前にあった。
それくらいの衝撃があるんです。
北村先生の作品で僕は度々「萌え」を感じてしまうのですが、これは僕がオタクだからなのか。それともこれが今流行りの「尊い……///」とか「エモい……」てやつなのか。
北村先生のすごい所は「あたかも見て来たかのように書く所」です。
小説家なんだし当然じゃん、て思う方もいるでしょうがこれは圧倒的な知識量、教養を持つ人間が初めて出来る芸当だと思っています。
先生の作品に登山を題材にした『八月の六日間』という作品があるのですが、これも
編集者から聞いた山登りの話だけでここまで書き切ったというのだからびっくり。
こっちもおすすめです。
北村先生の作品はいずれガッツリ記事書いてみたいなぁ。
2.野崎まど『野崎まど劇場』&『野崎まど劇場(笑)』
色々な意味で印象に残りました。
野崎まどは『アムリタ(映)』とかが面白いという話は聞いていたんですが、手が滑ってこの2冊を購入したという次第です。
電撃文庫は中高生の時とてもお世話になりました。まぁあの頃ってライトノベルの中でも電撃文庫はオタクの必須教養感ありましたよね。
僕が高校生くらいの頃といえば、確かカドカワがファミ通文庫やらMF文庫やらを買収して(僕とオタク友達との間で)話題になった覚えがあります。あれ世間的にはどれくらいの規模のニュースだったんでしょう。
この短篇集、どれをとっても読者の良識・寛容さを測るようで面白いんですが中でも
連載時に一旦ボツになり文庫で限定収録されたという「麻雀出エジプト記」は爆笑しました。主ヤハウェが我々にぶっこ抜きでの天和を見せてくれるのは、世界広しといえどもここだけでしょう。
コピー機を巡るOLの葛藤を描いた作品。こんなの初めて読みました。
今まで触れたことのなかったタイプの物語、という意味ではこの本との出会いは何気に今年一番の収穫だったかもしれません。
語り手のミノベは職場で誰も使わなくなったような道具を修繕して使うような貧乏性の物を大切にするタイプの人間。彼女曰く、不器用な自分が円滑に仕事を進めていくには道具の協力が必須で、彼らの得手不得手を理解し上手く扱ってやれば「必死の説得に彼らが応じてくれたかのような不思議な心の動きを呼び起こす連携」が出来るという。
そんな彼女にとって時に働き、時に怠ける(しかもミノベたちOLがコピー機能使う時に限って怠ける)複合機アレグリアはどうしても許せない存在なのです。
ミノベは機械と折り合いをつけて生きている。だからこそアレグリアが気に食わない。
不器用だけど相手を理解しないと気が済まない。上辺だけ取り繕うのは我慢ならない。
そんなミノベの人間性がアレグリアの感情を通して浮き彫りになる。
そして物語が進むにつれ、アレグリアにはミノベや我々読者想像する以上の人々の思惑が絡んでいたことが明らかになって行きます。
ちなみにアレグリアとはスペイン語で「歓び」という意味だそう。
「歓びとは仕事できない」。社畜としてはなかなかクるものがありますね。
ミステリ的に見れば『ジェゼベルの死』のような悪女を巡る物語の系譜に連なる作品なのかも知れません。
とにかく自分はこの小説を読んで津村記久子という人にとても興味が沸きました
4.エラリー・クイーン篇『ミニ・ミステリ傑作選』よりO・ヘンリー「二十年後」
クイーンの悲劇シリーズを読み終えた記念で国名シリーズに入る前に脇道に逸れようと読んだのがこれでした。言ってみれば編集長としてのクイーンが選んだ当時のオールタイムベスト。作家だけでなく編集長としても活躍したクイーン。すごいですねぇ(しみじみ)
そもそもこの短篇集が1969年に編まれた古いものなので、正直内容に関しては玉石混淆といった感じでしたが、今回取り上げる「二十年後」のように有名だけど読んだことない、みたいな作品を拾っていけたのは良かったです。
そんな作品集の中からこれを取り上げたのは訳の大切さを知れたから。
たまたま家にO・ヘンリーの短篇集が別にあったので読み比べてみたところ、ここまで印象が変わるものかと驚きました。
物語のクライマックスで出てくるあの手紙、僕は『ミニ・ミステリ~』の深町さん訳の方がハードボイルドな印象を受けしっくり来たのですが、皆さんはどうでしょうか。
以下致命的なネタバレがあるので未読の方は注意。
*ドラッグで反転
〇『オー・ヘンリー ショートストーリーセレクション』千葉茂樹訳
ボブへ。おれは約束の時間にあの場所にいた。おまえがマッチをすった瞬間に、シカゴ警察が手配しているのがおまえだとわかったんだ。だが、おれにはどうしてもできなかった。だから、署にもどって私服警官にまかせることにした。
ジミー
〇『ミニ・ミステリ傑作選』深町眞理子訳
ボブ。おれは時間どおりに約束の場所へ行った。きみが葉巻に火をつけるためにマッチをすったとき、おれはそれが、シカゴ警察から手配されている男の顔であることに気づいた。おれはどうしてもそれを自分でやる気になれなかった。だからそのまま巡回をつづけ、かわりに私服をさしむけたんだ。
ジミー
5.法月綸太郎『頼子のために』
愛娘を殺された父親を巡る物語。探偵はどこまで事件に、犯人に干渉していいのか。という題材の話がありますが、今作はそんな話です。そして僕はそんな話が大好きです。
好きです。苦悩する探偵。
「頼子が死んだ」。新本格の中ではかなり有名な書き出しなのではないでしょうか。
ずーっと読みたい読みたいと思いつつ積んでいた本。今回挙げた中では一番熟成期間が長かったです。かなり重い、有り体に言えば胸糞な話だと聞いていたので、読むタイミングを掴むのに苦労しました。そういうキツい話は自分の気持ちが落ち込んでいる時に取っておきたい派なんです。落ち込んだ時に聴くのも元気づけてくれる系ではなく、病み系の曲です。なんというか寄り添ってもらえる感覚とでもいいますか。あれが好きなのです。
名探偵法月綸太郎が、そして作家「法月綸太郎」が打ちひしがれた事件だったんだなぁというのが本作を読んでの感想です。お話もそうなんですが、法月先生のあとがきが、もう、本当につらい。文庫版で読んだんですが、ここまで作者を追い詰める作品てのも中々ないのではないでしょうか。
ネタ元になったという『野獣死すべし』もいずれ読みたいですね。
あと個人的には読んでいる途中モバマスの古澤頼子さんがちらついてたのも辛さに拍車をかけていました。頼子さんかわいい。
古澤頼子とは (フルサワヨリコとは) [単語記事] - ニコニコ大百科
以上になります。
折角ブログを開設したので来年はちょこちょこ書いていきたいと思います。
基本的には今回のようにオタクが自分の好きなものに絡めて読んだ本についてだらだら感想を書いていく形になると思います。
それではよいお年を。